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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)239号 判決

控訴人 千崎関吾

被控訴人 国

代理人 平賀俊明 本間良樹 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人が原判決末尾添付物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)につき賃料一か年金三万九四九六円、賃料支払方法毎年四月末日払い、賃借期間昭和五〇年四月一日から二〇年間なる賃借権を有することを確認する(従前の請求)。被控訴人は控訴人に対し金一〇五九万円を支払え(当審における予備的請求)。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決四枚目裏九行目の「被告」を「原告(控訴人)」と、「原告」を「被告(被控訴人)」とそれぞれ訂正し、同末尾添付の「地積測量図」に「第一図面」と、同「配置図」に「第二図面」と加入する。)。

(控訴人の当審における予備的請求の請求原因)

一  原判決事実摘示第二、一本訴の請求原因1、2に記載のとおり、控訴人は、昭和四三年三月一八日本件土地につき被控訴人との間において、賃料は一か年三万八五八八円(その後三万九四九六円に改訂)、その支払時期は毎年四月末日払い、賃借期間は昭和三〇年四月一日から二〇年間なる賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結したものである。そして、本件土地は、控訴人が昭和二八年一二月二五日被控訴人から払い下げを受けた原判決末尾添付物件目録記載(三)の土地(以下「本件隣接地」という。)及びその地上の同目録記載(四)の建物(以下「本件建物」という。)の通路として必要不可欠なものであるから、本件賃貸借契約は、本件建物の所有を目的とし、借地法の適用を受けるものであるというべきである。

二1  借地法の適用のある賃貸借契約は、期間満了時においても更新されるのが原則であり、賃貸人は例外的に正当な事由のある場合にのみ当該契約を終了させうるのみにすぎないのであるから、当該賃貸借契約に基づく賃借人の権利(借地権)は、半永久的な土地利用権であるというべきである。しかるところ、原判決事実摘示第二、三、1ないし3に記載のとおり、被控訴人は、地方公共団体たる板橋区において公共の用に供するため本件土地を板橋区道に編入したことをもつて、(イ)更新拒絶及び使用継続に対する異議の正当事由ないしは(ロ)国又は公共団体において公共の用に供する必要が生じたときは契約を解除することができる旨の本件賃貸借契約上の解除条項(契約書((<証拠略>))一六条二項)に基づく解除の事由として主張している。

2  ところで、憲法二九条三項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と規定し、また、国有財産法二四条一項は「普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に国又は公共団体において公共用、公共又は国の企業若しくは公益事業の用に供するため必要を生じたときは、当該財産を所管する各省各庁の長は、その契約を解除することができる。」としたうえ、その二項において「前項の規定により契約を解除した場合においては、借受人は、これによつて生じた損失につき当該財産を所管する各省各庁の長に対し、その補償を求めることができる。」と規定している。そして、右規定を受けて、本件賃貸借契約の契約書一九条二項は「乙(借受人)は、国有財産法第二四条第一項の規定に基づき本契約が解除された場合において、損失が生じたときは、同条第二項の規定に基づき補償を請求することができる。」との条項を設けている。

3  本件土地が普通財産であり、また、借地権が私有財産であることはいうまでもない。そして、前記のとおり借地権は半永久的な権利であるところ、被控訴人は、「公共の用に供するため」ということを更新拒絶もしくは使用継続に対する異議又は解除の事由とし、現にそのことを根拠として、期間満了前から本件土地の返還を求めたのであるから、仮に被控訴人主張のとおりに、控訴人の有する本件土地の借地権が消滅するものであるとすれば、被控訴人は、(期間満了による契約の終了の場合も貸付期間中の契約解除の場合と同様に)控訴人に対し前記法条及び契約条項に基づき損失の補償をなすべき義務を負うものと解すべきである。

4  控訴人の被る損失は本件借地権の喪失であるから、被控訴人が控訴人に対して補償すべき金額は右借地権の価格であるべきところ、該借地権はその使用目的が私道敷としての利用に制限されているから建物所有を目的とする通常の借地権価額の半額をもつて控訴人の損失とするのが相当である。

そして、本件土地の更地価格は三・三平方メートル当り六〇万円であり、通常の借地権価額はその七割(三・三平方メートル当り四二万円)が相当であるから、控訴人の失う損失は右の半額(三・三平方メートル当り二一万円)である合計一〇五九万円(万未満は切捨て)とするのが相当である。

三  よつて、控訴人は被控訴人に対し、本件借地権消滅の損失補償として右一〇五九万円の支払いを求める。

(予備的請求原因に対する被控訴人の認否反論)

一  予備的請求原因一の事実中、控訴人が本件隣接地と本件建物の払い下げを受けた日及び本件賃貸借契約に借地法の適用があるとの点は否認するが、その余は認める。

本件賃貸借契約は、本件土地を私道敷として利用することを目的としてなされたものであり、かつ、他人の通行を阻止し又は阻止しようとする物件などを構築したり、独占的使用をしたりしない旨の制約を付して締結されているものであるから、右契約より生ずる土地の利用権をもつて建物所有を目的とし、借地法の適用を受ける借地権であるということはできない。

二1  同二1の事実中、借地法の適用のある賃貸借契約は更新されるのが原則であり、借地権は半永久的な土地の利用権であるとの点は争うが、その余は認める。

2  同二2の事実は認める。

3  同二3の事実中、本件土地が普通財産であり、借地権が私有財産であること及び被控訴人が控訴人主張の事由を契約終了の理由としており、現にそのことを根拠として期間満了前から本件土地の返還を求めたことは認めるが、その余は争う。

国有財産法二四条の規定及び本契約書一九条二項の条項は、契約期間中における解除の場合の補償につき定めているものであつて、本件のように期間満了により契約が終了する場合について定めているものではないし、また、この場合に右法条と契約条項を適用すべきいわれはない。

4  同二4の主張は争う。

控訴人は、本件賃貸借契約の終了により何らの損失も被るものではない。すなわち、控訴人の権利は本件土地を私道敷として使用するというものであるところ、本件土地の大部分は、昭和四七年一〇月三日に板橋区道二〇九九号の一部に編入され、道路として整備され次第、供用を開始する予定であり、控訴人は従来と同様これを自由に通行しうるのであつて、控訴人が本件土地を利用しうる内容は、本件賃貸借契約終了の前後を通じて全く変りないのであるから、補償の前提となる損失は生じない。

(証拠関係) <略>

理由

一  控訴人と被控訴人との間において昭和四三年三月一八日本件土地につき、賃料は一か年三万八五八八円(その後三万九四九六円に改訂)、賃料支払時期は毎年四月末日払い、賃貸借期間は昭和三〇年四月一日から二〇年間とする旨の本件賃貸借契約が締結されたことは当事者間に争いがない。

二  控訴人は、本件賃貸借契約は借地法の適用を受けるものであり、更新されて現に存続している旨主張するのに対し、被控訴人は、右契約は昭和五〇年三月末日をもつて期間満了により終了した旨抗争するので、以下判断する。

<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

1  本件土地は、原判決末尾添付第一、第二図面により明らかなとおり(旧仲仙道から西方に延びる幅員約三・六メートル(奥の幅員はこれより狭い。)、長さ約五〇メートルの通路であり、本件土地に並行して、その南側には幅員約一・八メートルで長さも本件土地より短い私道があり、その北側には幅員四メートルの公道(区道)がある。なお、本件土地と右北側区道を結ぶ幅員四メートル、長さ一二メートルの道路(第二図面の表示で東京都母子寮と佐藤家との間にあるもの、以下「一二メートルの道路」という。)は昭和三七年ごろ開設されたものでその前は存在しなかつた。

本件土地の西方にある右母子寮の所在地には、太平洋戦争中は旧陸軍板橋憲兵分隊の隊舎があり、本件建物は右分隊の分隊長官舎であつた。

2  控訴人は、昭和一八年八月ころから右憲兵分隊の分隊長として本件建物に居住していたものであり、昭和二〇年五月戦災に遭うまでは本件土地の両側には高さ約一・八メートルの板塀があり、本件土地は終戦時まで右憲兵分隊の専用通路として利用されていた。控訴人は、終戦後も引続き本件建物に居住しており、昭和二八年一二月二五日被控訴人から本件建物とその敷地である本件隣接地の払い下げを受け(このことは払い下げの日を除き当事者間に争いがない。)、以来現在に至るまでここを生活の本拠としてきた。右払い下げの際、控訴人としては、本件土地の払い下げも希望したが、当時既に控訴人以外の者もこれを通行していたところから本件土地は払い下げの対象から除外された。しかし、本件土地は控訴人方から公道に通ずる唯一の通路であつたため、控訴人は被控訴人に対し本件土地の借受申請をした。

3  被控訴人は、当初本件土地を控訴人一人に貸し付けることは他の近隣居住者も通行する本件土地につき控訴人に特権を付与することになりかねないので問題であると考えたが、借受目的を私道敷としたうえ、他人の通行を阻止し又は阻止しようとする物件などを構築してはならない旨の制限を付してこれを控訴人に貸付けることとし、控訴人との間において、(1)昭和二九年六月二六日付で、期間を同二八年一二月二六日(本件建物など払い下げの翌日)から同三〇年三月末日までとし、前記使用目的及び制限の趣旨を明確に定めた国有財産賃貸借契約を締結し、(2)昭和三〇年一一月三〇日付で、期間を同年四月一日から同三二年三月末日までとする前同旨の普通財産貸付契約を締結し、(3)昭和三二年四月一日から同三四年四月末日までの間は契約書を作成することなく従前同様に有償で貸与し、(4)昭和三六年三月三一日付で、期間を同三四年四月一日から同三七年三月末日までとする前同様の約旨(但し、このときは前掲制限条項の明文は置かれていない。)の国有財産有償貸付契約を締結し、(5)同年四月一日から同四三年三月までは右契約に定めた更新条項に基づき三年ごとに契約が更新され、(6)昭和四二年八月国有地の貸付に関する契約書の書式が一時の臨時的使用契約と長期間にわたる契約との二つに分れたのを契機とし、期間の始期を区切りのよい昭和三〇年四月一日に遡及させて、同四三年三月一八日付で使用目的を道路敷とし期間を二〇年間とする前記一の本件賃貸借契約(国有財産有償貸付契約)を締結した(本件賃貸借契約締結の事実は当事者間に争いがない。)。右契約には前掲制限条項の明文は置かれていない。

以上の各契約における更新の定めをみると、前記(1)の契約には更新条項はなく、前記(2)の契約は更新について、控訴人は期間満了の二か月前までに申請書を提出して、被控訴人の同意を得なければならないと定め、前記(3)の契約の定めは不明であり、前記(4)の契約は、期間満了の三か月前までに控訴人又は被控訴人から特段の意思表示がないときは三年間継続するものとし、爾後同様に取扱うものと定め、前記(5)の契約の定めは不明であり、前記(6)の契約(本件賃貸借契約)には更新条項はない。

4  本件土地は主として控訴人が利用しており、近年は夜間西寄りの部分に自動車を駐車させていたが(駐車について被控訴人の承認を得たことを認めうる証拠はない。)、控訴人方西隣の大関方は本件土地を通らなければ公道へ出ることができず、また、本件土地の南に接する小笠原久平(以下「小笠原」という。)方の前居住者亀倉尚徳は医師で、同所で開業していたが、南側の私道は狭い路地で自動車が入れないので、患者を自動車に乗せて医院に横付けにするためには本件土地を利用する必要があつた。そこで、亀倉は、控訴人の了解をえて本件土地に面し出入口を設置し、これを利用していた。

昭和三六年五月小笠原ないしは同人の経営する会社が亀倉所有の土地建物を買受けて小笠原一家がこれに居住した。小笠原は、本件土地は自由に利用しうる通路であり、南側の私道部分のうち自己の買受けにかかる部分は自己が専用しうる筈であると考え、本件土地上に自動車を停車又は駐車させたりするとともに、昭和三九年一一月には自宅南側の私道部分に塀を設置するなどし、小笠原方西奥に居住する熊坂、藤田、一丸らが私道を通行することができないようにした。

このような小笠原の行動に対し、まず、控訴人は、小笠原方と接する本件土地部分に有刺鉄線を張るなどした末、昭和四三年九月には右部分に原判決末尾添付物件目録記載(二)の物件(以下「本件ブロツク塀」という。)を設置した。また、小笠原が南側私道部分に設置した塀の撤去などに関し、熊坂、一丸らと小笠原との間に訴訟が係属したが、右訴訟は昭和四四年六月熊坂、一丸らの勝訴で落着し、小笠原の設置した塀などは撤去されたが、それまでの間は熊坂、一丸らも専ら本件土地を通行した。なお、小笠原は右訴訟の係属中に死亡し、その相続人らが訴訟を承継したものであるが、訴訟終了後小笠原所有の土地建物は第三者に譲渡された。

5  本件土地はその西側の旧板橋憲兵分隊跡地とともに板橋区仲宿五二番九の一筆の土地であつたところ、昭和三五、六年ころ東京都が被控訴人から憲兵分隊跡地を買受けて母子寮を建築することとなつたが、本件土地には控訴人の賃借権が付着していたので都はこれを買受けの対象から除外し、残りの土地について昭和三六年四月七日売払契約が成立した(登記手続としては、昭和三七年二月六日元の五二番九宅地が同番九宅地四四七・二〇平方メートルと同番八宅地一九三・〇二平方メートルに分筆され、前者につき、同月二二日東京都に対する右売払に基づく所有権移転登記が経由された。なお、後者の土地の大部分が本件土地に該当するものである。)。そして、昭和三七年ころ都の母子寮が建築された際、本件土地とその北側医道とを結ぶ前記一二メートルの道路が開設された。

6  被控訴人は、本件土地は板橋区の区道とするのが適切であると考え、昭和三九年三月一六日ころ板橋区の係官と折衝したが、当時の区の方針は区道化に消極的であつた。しかし、その後、昭和四四年五月九日関東財務局長名で板橋区長に対し本件土地の区道化が申し入れられ、同区長は、所要の手続を経て昭和四七年一〇月三日、本件土地の大部分と一二メートルの道路がL字形をなして構成する延長五七・八メートルの土地部分の区道編入(区域変更)を告示した。

板橋区が本件土地の区道化を決定した理由は、本件土地付近の居住環境の改善と付近住民の福祉の向上を目的とするものであつた。すなわち、本件土地が区道化されていないため、本件土地は公費で舗装がなれていないのはもちろん、その地下に上・下水道、ガス管などが設置されておらず、そのため本件土地の両側及び西側奥に居住する住民の日常生活に多大な支障が生じているうえ、右住民の間に本件土地の利用をめぐつて紛争が絶えない有様で、これにつき行政面で対応しなければならないこともあつたところから、これらの問題を解消することを目的としたものであつた。

7  被控訴人は、本件賃貸借契約の期間満了の翌日である昭和五〇年四月一日板橋区に対し区道用地として本件土地を無償で貸与し、板橋区は、控訴人から本件土地の明渡しを受け次第、直ちにその舗装などを施行して区道としての供用を開始する予定である。そうなれば、控訴人をも含めて付近住民は多大の利益を享受することができ、また、控訴人は賃借料負担の問題から完全に解放されることとなり、区道化により法律上控訴人が不利益を受けることは考えられない。

以上の事実を認めることができ、<証拠略>中本件土地は終戦前から自由に通行することができたかのような供述部分は措信し難く、他に右認定を妨げる証拠はない。

三  ところで、土地の賃貸借が借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」ものかどうかは賃貸借契約の文言、土地の地目、実際の使用状況、工作物の有無・種類などに照らし、客観的に判断すべきものであり、ことに本件においては、本件賃貸借契約の前身である数次の貸付契約の大部分が契約更新条項を包含し、実際においても数回に亘つて契約の更新がなされた結果として、本件土地については実質上長期間の貸付関係が形成、継続されてきており、昭和四三年三月一八日付で、始期を昭和三〇年四月一日に遡及させて締結した本件賃貸借契約は右貸付関係を承継したという意義を有するものであるから、前示の判断は先行の貸付契約に遡つてなされなければならないものと思料される。そして、右認定の事実(特に二1ないし3の事実)によれば、本件土地は控訴人に対し私道敷として使用することを目的として有償で貸し付けられたものであり、しかも、控訴人の取得した使用権は排他的な専用通行権とは異なり、付近の他の住民が通常の用法に従つて通路として利用することを容認するという制限の付された使用権であり、このことは先行の貸付契約につき当初作成された契約書に明記され、その後該契約が数回に亘つて更新されて本件賃貸借契約が成立するに至るまで、契約書の明示の文言に若干の差異がみられるものの、終始、約定として取り決められ、本件賃貸借契約においても、私道敷として使用するという目的は契約書上明記され、また、前記使用の制限は暗黙に合意されたものと認めるのを相当とし、実際上も、控訴人は自他共に本件土地を通行の用に供してきたものである(控訴人が近年一部を夜間駐車のため使用しているが、これについて被控訴人の承認を得たとの証拠はないこと前述のとおりである。)。

なるほど、本件土地にこそ建物は存在しないが、控訴人は本件隣接地上に本件建物を所有し、ここを生活の本拠としてきたものであり、昭和三七年ころ一二メートルの道路が開設されるまでは控訴人が公道に出入りするためには本件土地のすべてを通行するほかなかつたことは明らかであり、被控訴人もそのことを知悉していたと推認されるが、控訴人が通行の利益を確保するためには本件土地を通行のため使用することを目的とする使用権を取得すれば足りるわけであるから、右事実から直ちに先行の貸付契約、延いて本件賃貸借契約をもつて建物の所有を目的とする借地法の適用のある賃貸借契約であると判断しなければならないいわれはない。以上を要するに、本件賃貸借契約は、建物の所有を直接の目的とするものではなく、本件土地を私道敷として利用することを直接の目的とするものであることが明らかであるから、民法上の通常の賃貸借契約であると解するのが相当である。

したがつて、本件賃貸借契約は昭和五〇年三月末日をもつて期間の満了により終了したものというべきである。

仮に本件賃貸借契約が借地法の適用を受けるものであるとしても、契約期間満了直後の昭和五〇年四月三日到達の内容証明郵便をもつて、被控訴人が控訴人の本件土地使用継続につき異議を述べたことは、控訴人の明らかに争わないところであり、しかも、前認定の事実(特に二6ないし7の事実)関係のものとにおいては、被控訴人の述べた異議には正当な事由があり、本件賃貸借契約は期間の満了により終了したものというべきである。

そして、本件土地が被控訴人の所有であり、控訴人が本件土地上に本件ブロツク塀を設置して本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

以上の次第であるから、本件賃貸借契約が更新されたことを前提として、本件土地につきその主張の借地権を有することの確認を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきであり、他方、本件ブロツク塀を収去して本件土地の明渡を求める被控訴人の反訴請求は正当として認容すべきであり、右と結論を同じくする原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

四  次に、控訴人の当審における予備的請求について判断する。控訴人は、控訴人の有する本件土地使用権が借地法上の建物所有を目的とする借地権であることを前提としてその喪失による補償を請求するが、本件土地の賃貸借契約が借地法の適用を受ける賃貸借契約に当るものと認められないことは先に認定説示したとおりであるから、右予備的請求は既に前提そのものにおいて失当であるといわざるをえない。

のみならず、仮に本件賃貸借契約が借地法の適用を受けるものであるとしても、国有財産法二四条の規定及び本件賃貸借契約の補償条項は、国又は公共団体が普通財産を貸し付けた場合において、貸付期間中公共の用に供する必要が生じた場合に、国又は公共団体に対し特に契約の解除権を認め、他方、右解除権の行使により借受人が損失を被る場合に適用されるものであり、約定の貸付期間が満了して契約が終了する場合にまで適用されるものでないことは右法条及び右条項の文言自体に徴し明らかである。そして、本件賃貸借契約の期間満了後における控訴人の本件土地使用継続に対し、被控訴人が遅帯なく異議を述べ、しかも、右異議に正当な事由が具備されているものと認められることは先に述べたとおりであるから、右契約は期間の満了により終了するに至つたものであることが明らかであり、損失補償の余地はないというべきである(あるいはこれに対し、国又は公共団体が使用の継続に対して述べた異議の事由が当該普通財産を公共の用に供する必要が生じたという点にある場合には、同一の事由による契約の解除の場合と同視すべきであるとの異論があるかもしれないが、当裁判所は、双方当事者に存する諸般の事情の比較衡量の結果公共の用に供する必要が重視されて異議の正当の事由があると判断され、賃貸借が終了するに至つた場合には前記法条及び条項を適用するのは相当ではないと思料する。)。

したがつて、当審における控訴人の予備的請求も失当として排斥を免れない。

五  よつて、本件控訴及び控訴人の当審における予備的請求を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

原判決末尾添付第二図面〈省略〉

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